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鳴く虫のコーラス [電子ブック]

 日本各地から採集してきたコオロギやクツワムシなどをカゴに入れ、それを鳴かせる実験にとりかかった。
集めた虫の種類は12。個体数が多いのはクツワムシ。これは面白いことになるぞ!

 日が暮れるのを待っていると、最初に鳴きだしたのがウマオイである。これは、か細い声だから、それほど大きくはない。つづいてマツムシも鳴き出した。チンチロリン、という鳴きかたである。

 しばらくすると、リーンリーン というスズムシが鳴きはじめ、つづいてエンマコオロギが、コロコロ という玉を転がすような声で鳴きだした。

 これらの声は微妙に入れ混じって、素晴らしいコーラスが展開されていた。と、そのときである。ガチャガチャ、という声がした。しかも、その声は大きい。これは、体も大きいクツワムシ。

 クツワムシは、1匹が鳴きだすと、それにあわせ、次々と鳴きだしたからたいへん。その数なんと10匹。これらが一緒に鳴くから、それはやかましい。

 チンチロ チンチロ  リーンリーン  ガチャガチャ  コロコロ  それは、とてつもないコーラスになっていた。
これは凄い。 生まれてはじめて聞く虫たちのコーラスだ。ご想像あれ。

 ひとり酔いしれていた。と、そのときである。
「ドンドン」 玄関の戸をたたく音。

 どきっ!  おそるおそる戸をあけた。すると、そこには、顔を真っ赤にしたとなりの奥様が。
「これは いったい何事ですか」 
「はい、あのう そのう いや すみません」 まじめな返事ができないでいた。

 すると、いきりたった奥様は、
「うるさくて 眠れやしない。 早く何とかしてちょうだい」、と大声で、、、。

 はじめのうちは、虫の声に消されてしまい、何を言っているか分からないでいた。
しばらくしてから、その言っていることが分かってきた。

 「はい ただいま しずかにさせますから」
そう言ってから、すばやく虫かごをムチで叩いたのである。

 すると どうだろう。
虫たちは、一斉に鳴きやんだ。この早業、自分でも驚いた。

 この早業をみた隣の奥様は、どうも拍子抜けしたらしく、ただ ぽかーん とした表情で、しばらく眺めていた。
やがて平静を取り戻した奥様は、「ふん!」 と言ったきり、くるっ とふりむいて そそくさと帰っていかれたのだった。

 子供を泣かせて、うるさい! と叱られた話はよく聞くが、虫を鳴かせて、うるさい! と叱られた話はまだ聞かない。でも私は、美しい声で鳴く虫が大好きだ。

 以上で、鳴く虫のお話は終わりです。お粗末さまでした。
次回からは、「イッシーの生録日記」 が始まります。乞うご期待を。









 


連載  美しい鳴き声を訪ねて  タイワンカンタン [電子ブック]

  タイワンカンタン(ヒロバネカンタン) の鳴き声

  カンタンの鳴き声

  タイワンカンタンの姿
Hカンタン.jpg

 はじめて見る虫、タイワンカンタン

 私が、生まれてはじめて 「タイワンカンタン」 に出会ったのは、1970年の夏でした。
小学生の子供2人と妻を乗せ、山陰道をドライブしていたときのことです。
 日が暮れたので、どこかでキャンプをしようということになった。
そこで、あちら、こちらを探していると、島根県の興津という海岸によいところが見つかり、波も静かだったので、砂浜にテントを張り、そこへ子供たちを寝かせることにした。

 しばらくすると、どこかで虫が鳴いている。よくきくと、それは、まだ一度もきいたことがない声だった。いったい何だろう。そう思うだけで胸がわくわくしてきた。

 さっそく録音の準備をして外にでた。すると、そこいらじゅうで鳴いている。「ルールールー」 という声だ。
コオロギの仲間には違いないが、それにしても鳴いている場所がちがう。ふつうのコオロギは、たいていは地面近くで鳴いているのに、これは草の上。ひょっとすると、新発見?かな、とも思った。

 マイクを近づけて、まずは録音を。いろいろな角度から録音した。もうこれで十分だろう。そう思うくらい録音をしておいた。つぎは、この虫の採集である。

 ヘッドホンを耳にかけたまま懐中電灯を照らし、声のする場所探しをはじめたのである。するとどうだろう。いたいた。小さくて細長い虫。それでいて触覚は長い。それを上下左右に動かしながら鳴いている。
 さて、この虫、どうやって捕まえようか。しばらく考えていたが、そのうち、ぱっとひらめいた。そうだ、魚捕りの網を使おう。
 鳴いている虫の下側に網を置き、その中へ誘いこんだ。ところが、この虫、逃げるのが早く、なかなか思うように入ってくれない。そこで次なる手段。網の中へ叩き落としてみた。これは見事に成功。体に傷つけることなく捕獲できた。

 つづく。

 



 

連載  美しい鳴き声を訪ねて ブラック クリケット [電子ブック]

 第1章  鳴く虫偏
 1-02 外国の蟋蟀

 「ブラック クリケット」
 1988年の4月から半年間、オーストラリアのブリスベンで、レジャー覧会が開かれた。
そのとき私は、この仕事で2回遠征し、通算3ヶ月現地滞在する機会を得た。
 これを逃がす手はないと毎日仕事に励み、余暇を利用しては蟋蟀調査を行っていた。
調査をしたところは、ブリスベン、ケアンズゴールドコースト、ウーロンギャバなどである。

 このあたりの時差は1時間、日本とは気候が反対になる。つまり、日本が夏のときは冬になる。
しかし赤道に近いこともあって、冬といってもそれほど寒くはない。

 というわけで、オーストラリアには、日本と同じようなコオロギがたくさんいた。
例えば、エンマコオロギ類のほか、カンタンやマツムシなどである。
 それらの中で、際立って目立ったのが ケラの仲間だ。
日本と同じようなケラもいたが、それ以上に大きいのがいたからたいへん。

 体も大きいが、声もでかい。
それが一晩中鳴くものだから、現地の人たちは、「ノイジー」 と言っていた。
 ある晩、これを苦労して捕まえてみたところ、なんと、体長が4センチほどもあった。
これに噛みつかれたら、と思うと、ぞっとする。
このケラの名前を、現地の人に尋ねたら、「ブラック クリケット」 だと教えてくれた。

 参考までに、この、ブラック クリケットと、日本のケラの鳴き声をのせておいたので、ぜひ 聞き比べてみて欲しい。

上がブラック クリケットの声  下が日本のケラの声
 
 
RIMG0011ブリスベン.jpg
 この写真は、ブリスベンの中心街。手前は公園の一部です。
 おわび。 原文はたいへん長い物語になっています。そこで、できるかぎり省略して分かりやすく書いてみました。




 

 

  

 

 

 

 


連載  美しい鳴き声を訪ねて  「クツワムシ」改 [電子ブック]

 第1章  鳴く虫編
 1-05  クツワムシの話

 「放送がご縁で クツワムシを見に行く」
 私は、平成13年の秋、NHKスタジオから鳴く虫の話を放送した。
ところが、この話をきいておられたお客様から1通のお手紙を頂戴した。

「あなたの放送を聞かせていただいて、たいへん感動しました。そして、減りつつある虫たちの現状を知り、たいへん心が痛みました。でも、私たちが住んでいる近くには、まだクツワムシが鳴いているところがあります。ご案内致しますので、ぜひいちど聞きにきて下さい」 という内容だった。そんなわけで、翌年の秋、お手紙を頂戴したお客様の家に行くことにした。

 家を出発したのは夕方。陽は沈んだがまだ暑い。エヤコンも無い車なので無理もない。4号線を北に向かって走った。夏休み最後の日曜とあって、車は渋滞。それでも目的地には10時前に着いていた。

 「遅くなってごめんなさい。それでは案内よろしくお願いします」
「いいえいいえ、わざわざ起こしいただき、ありがとう」

 というわけで、クツワムシの現地調査がはじまった。
はたして、クツワムシのいるところは、どんなところだろう。
お客様の運転する車のあとについて、どんどん林の中へ。
およそ20分は走っただろうか。

 「このあたり一帯にクツワムシがいます」
耳をすましてきいていると、どこかで、ガチャガチャ という声がした。
「ほら、鳴いたでしょ」
「ほんと ほんと、確かに鳴きましたね」

 もってきた懐中電灯を照らし、声のする方へ。
「ほらほら、あそこにいるでしょ」
「なるほど、確かにいますね」

 そんな会話をしたあと、私はこのクツワムシの声を録音し、そのついでに1つがいだけを採集、家に持ち帰った。これは、研究目的のためでもある。

 「クツワムシの寿命」

 クツワムシって、いったい、どのくらい生きるのだろうか。それを試したかった。
現地で採集したクツワムシを飼育してみることにした。

 飼育する容器の寸法は、W=300  D=200  H=200 (単位=ミリメートル)
与える餌は、クズの葉とギシギシの葉。それに、ウグイスに与える練り餌。

 この3つのうち、いちばんよく食べたのは、クズの葉。ついで、ギシギシの葉、ウグイス用練り餌の順。
葉は、枯れてくると、あまり食べなくなるが、練り餌だけは、いつ与えてもよく食べた。

 鳴く行動は、8月31日からはじめた実験の結果、寒くなるにつれて鳴く時間帯が早くなっている。これは、陽が短くなっているのと関係がありそうだ。

 鳴きはじめる時間帯も、初秋では20時ころから。中秋では7時ころから。晩秋になると、さらに早くなる。それに加え、鳴いている時間の長さも変化していた。

 初秋では10分くらいだったのが、晩秋になると4分を切るようになる。さらに、寒くなると、鳴くときと鳴かないときとがある。そして、やがて寿命の尽きるときが。それは、12月12日の夜だった。



 クツワムシの声です。
 ジャー、と連続して聞こえるところは序奏鳴きをしているところで、
 ガチャガチャ と聞こえるところは本奏鳴きしているところです。

RIMG0009クツワムシ波形図.jpg

 これは、クツワムシの声をオシロスコープで分析した波形図です。
 波形の低いところは序奏鳴き、高いところは本奏鳴きをしているところです。
 声と波形図とを見比べながら聞いてみてください。



 

 
 



 
  





 

連載  美しい鳴き声を訪ねて  カンタン [電子ブック]

 第1章  鳴く虫編
 1-04  「カンタン」 改

 「枕辺でカンタンを鳴かせることができた」

 1970年の秋である。
 宮城県の山奥に、鬼首(おにこうべ) という間歇泉で有名な温泉がある。そこに資料館をつくることになった。私は、その仕事でジオラマ作りをしていたが、夜になるとロッジで一杯飲むのが楽しみだった。そんなある夜のことである。

 窓の外から「カンタン」の声が聞こえてきた。「ルルルルルル」 と連続した声である。すると、一緒に飲んでいたロッジのご主人は、目をつむったまま、うつむいてしまった。

 どうしたのかな? と思って様子をみていると、しばらくして目を開けた。そして、

「あれは、カンタン、 といって、このあたりでは、この声を聞きながら眠ると幸せになれる、という伝説がある。だから、今、こうして眠っていたんだよ」、と。

 この話をきいて、なるほど、と思った。そこで、私もさっそく実践してみようと計画。あくる日、それをやってみた。ゆうべ聞いたカンタンの居場所を探し、がさがさやっていると、イタドリの枝からカンタンが落ちてきた。これ幸いとばかり、枝ごと持ち帰り、枕辺の花瓶に挿しておいた。

 するとどうだろう。夜がふけて、皆が寝静まるころ、このカンタンが鳴きだしたのである。こう書けばほんとうのように思え、何の変哲もないが、実は、そうではなかったのである。

 実際には、3晩は鳴かなかった。いろいろ工夫したあげくに鳴いたのが現状で、それほど、このカンタンという虫は、機嫌のとりにくい虫だった。

 あれこれやったあげく、3晩目のことだった。疲れはて、ほろよい機嫌で眠っていると、どこかでカンタンの声が、 「ルルルルルル」。

 しかし、これも夢の中。しばらくして眼が覚めた。
ややや?、カンタンが鳴いているではないか。驚いたなあ。夢ではなかったのだ。ほんとうにカンタンが鳴いていたのである。嬉しかった。

 こうしてカンタンが鳴きだすと、ちょっとやそっとでは鳴き止まない。30分? いや1時間? それほど長く鳴きつづけたのである。

 このことがあってから、気がつけば何十年もたっていた。そして、毎日が楽しくてたまらない日々に。それだけではない。カンタンのお陰で、その後、次々と不思議なことが起こりはじめていた。


 下の写真は、カンタンの声をオシロスコープで見た波図形です。
気温が低い高原では、鳴くテンポが遅くなり、1秒間に7回ほど鳴いていることが分かります。
反対に、平地では、1秒間に9回ほど鳴いています。
しかも、鳴く周波数も、それぞれ変わっています。平地は高く、高原では低くなっています。

RIMG0003邯鄲の波形図.jpg



 これは、一般的に聞くことができるカンタンの声です。参考にはなるでしょう。










 

  

 

連載  美しい鳴き声を訪ねて  マツムシ捕り  [電子ブック]

 第1章  鳴く虫編
 1-08 「マツムシ捕り」 改
 
 虫の声録音に夢中になっていたある日、御前崎へマツムシ捕りに行った。
そのころは、中部電力浜岡原発の仕事でよく通っていたこともある。

 仕事が終わって帰るのは、だいたい夜中になることが多かった。
そのせいか、車の窓をあけて走っていると、マツムシの声がよく聞こえていた。

 何回か通ううち、マツムシが鳴いている場所もつかんでいた。
そんなわけで、いつかはマツムシ捕りにきてみよう、とは思っていた。

 それが、ついに実現した。
ところが実際にマツムシが鳴いている草むらは急斜面。

 虫の声に誘われて急斜面をよじ登ると、足元がすべり、何回か滑落した。
無理もない。そこに生えている草は、みなチガヤばかりだから。

 これを見たマツムシも、ただあざ笑うかのように、チンチロチンチロと鳴き続けている。
ようし、いまに捕まえてやるからな。

 やっとのおもいでたどりついた場所は、斜面の中腹。
1箇所だけ平坦なところが見つかった。

 目をつむると、耳が破れそうになるくらい賑やかに鳴いている。
いったい、どこで鳴いているのだろうか。

 ライトを点けてあたりを探したが、マツムシの姿は見えてこない。
それでいて、マツムシは、すぐ近くにいるらしい。

 静かにしていると、「あっちだよ こっちだよ」 というふうにも聞こえる。
どうも、マツムシにもおちょくられているようだ。

 こうなったら、もう 粘るしかない。
うつろな目をして、ただ ぼんやりと草むらを眺めていた。

 と、そのときである。
声に同調して動くものを発見。

 ついに見つけたぞ!
マツムシは、チガヤの根元付近で鳴いていた。

 ところが、1度目を離すと、すぐに見失ってしまう。
無理もない。保護色だからだ。

 次に、目線をかえて見ていると、こんどは交尾したマツムシが見えてきた。
こんどこそ2匹一緒に捕まえてやるぞ。

 この欲張りがいけなかった。
1匹はおろか、2匹とも逃げられてしまった。

 こんなくり返しをしながらも、明け方まで粘って、やっと3匹(オス1匹、メス2匹)をゲット。
気がつくと、もう東の空が白みはじめていた。

RIMG0001マツムシ.jpg

 このイラストは、マツムシのオス
マツムシはオスしか鳴かない。

 場所や時季によって、多少鳴きかたが違うようだ。
 普通は、「チンチロ チンチロ」 というふうに鳴くが、ときには、「チチッ チチッ」 とも鳴く。

 上手に家で飼育すると、12月1杯は鳴く。
今までの飼育経験では、越冬させたこともある。
このときは、部屋の温度と湿度とをうまく管理したこともある。

 現地調査でも、御前崎や清水あたりでは、12月1杯、鳴いていた。



マツムシの声、最盛期のころ






 

 

 

 

 

 

連載  美しい鳴き声を訪ねて スズムシとり [電子ブック]

 第1章  鳴く虫編

 1-06  「スズムシ捕り、OOになったそのとき」改
 
 スズムシに、夢中になっていた昭和38年ころの話である。
 ある日、野生のスズムシを捕りに行って、たいへん危険な目にあった。それを思い出すと、いまでもぞくっとする。
 夏の蒸し暑い夜、暗い雑木林の中へひとりで入って行った。草むらをかきわけ、クモの巣を払いながら、ただひたすらスズムシの音に誘われて。

 耳をすますと、スズムシの声が、、。 5回鳴きしている。 「リーン リーン リーン リーン りー、、、、、。」
家で飼育しているスズムシとは全然音色がちがう。しかも、リズムが長い。

 そうだ、先にこれを録音しておこう。草むらに腰をおろして録音機をセット。これに自作の集音マイクを接続。頭にヘッドホンをかけ、モニターする。

 スズムシとの距離は5メートルほど。ナマできくと小さくしか聞こえないが、この自作の集音機を使うと、目の前で鳴いているように聞こえる。

 いいぞいいぞ。スズムシの鳴き声は、ばっちり録れ、しかも、鳴いている場所までつきとめた。次はスズムシ捕りの番だ。

 機材を片付けて虫捕りの準備。まず最初は頭にヘッドライトをつける。次に手袋をはめ、ゴザと虫捕り機を用意する。これで準備完了。

 スズムシが鳴いていた場所を確認すると、そこには落ち葉や老木がどっさりあった。これならスズムシはたくさんいるぞ! 見ただけで胸がぞくぞくした。

 堆積した落ち葉をはがし、そこへゴザで衝立を。衝立は半円形にして倒れないようガードする。さらに土を掘って、スズムシが下から逃げないように。

 ひとりほくそえみながら落ち葉はがしに。すると、じめじめした落ち葉からキノコのような匂いが。さらに作業が進むと、空洞が見えてきた。

 そろそろスズムシがいてもよい筈だが、、。 目をこらして空洞を眺めていると、なにやら動くものが、、、。
ヘッドライトを照らしてみると、それは、まぎれもなくスズムシだった。

 もってきたニボシを割り箸でつまみ、それを空洞の中へ。しばらくすると、スズムシが寄ってきた。そして、このニボシに、、。 じわじわと引き寄せて捕獲。こうして何匹かは捕れた。ところが、これらは皆メスばかり。

 肝心のオスはさっぱり。そこで、思い切って残りの落ち葉全部をはぎとった。すると、逃げ場を失ったオスのスズムシは、ぴょんぴょんはねて、ゴザへと移動。 このスズムシには、ニボシの効果なし。

 次なる出番は 「虫捕り器」。ゴザにはりついたスズムシに、この虫捕り器をかぶせ、はいご用。じつにうまく捕れた。まるで手品みたいだった。

 ところが、よろこんだのも束の間。ズボンの中がちくちくする。はて何だろう。しかし困ったな。どうしよう。そう思っているうちにも、お尻のあたりにまで上がってきた。

 さらに、あの大事なところあたりがチクチクする。もう我慢ならん。大急ぎでバンドを緩め、とびとびしながら車道へと。

 車道の真ん中へでるや否や、一気にズボンを脱いだ。そして、脱いだズボンを逆さまにして強く振ってみた。
しかし、出たのは下着だけ。

 おかしいな? そんな筈はない。そう思ったので、ズボンの中へランプを。するとどうだろう。いたいた。大きなムカデが、、。青い体に赤い足。それがズボンにはりついている。

 うわっ! ムカデだ。 大声を出してズボンを投げ捨てた。しかし、ムカデは出てこない。こうなったら仕方ない。
ズボンをペチャンコになるまで踏みつぶした。

 もうムカデは潰れたに違いない。恐る恐るズボンをもちあげて、振ってみた。すると、どうだろう。つぶれたはずのムカデが、勢いよくとびだして、体をくねらせながら逃げ去った。

 草むらに逃げ去ったムカデを見送ったのも束の間である。そこへ現れたのは、、。何とパトカーだった。
しかも、音もなく、ゆっくりと近づいてきたからたいへん。

RIMG0099ムカデ騒動.jpg

 窓から上半身を乗り出したオマワリさん、
「君、そんな格好で、いま 何をしておったかね?」

 一難去って また一難。
それよりムカデのことが気になって、、。

 さらにオマワリさん、、
「はやくズボンはかんかね」。そう付け足した。

 穿きたくても、はけない理由がある。
まだ、ズボンの中にムカデがいるかも知れないからだ。

 ズボンの中をのぞいていると、
「ズボンの中に何か入っとるとかね」。そう言いながら降りてきた。
「そうです。ズボンの中にムカデが入っていたんです。いま、やっと逃げたばかりです」

何を勘違いしたのか、オマワリさん、
「うそつけ! ムカデのせいにして、何かほかのことしよったのと違うかね」

「いいえ、スズムシを捕まえていたんです」
「じゃ、何か証拠があるかね」
「はい、これです」 そう言ってスズムシを見せた。

「でも、まだ怪しいな」
「そうそう、スズムシの声も録音していたんです。

「じゃあ、それ聞かせて?」
「はい、これです」 そう言ってスズムシの声を聞かせてあげた。

しかし、それでもなっとくしないオマワリさん、
「あんたの言うとおり、証拠は揃いましたね。でもね、このへんは物騒だから、気をつけるんですよ」
「はい、よく分かりました。以後、気をつけます。お騒がせしてすみません」

 ということで一件落着。
2度も冷や汗をかいた暑い夏の夜の出来事だった。
スズムシ捕りは、くれぐれもご注意を。


 この日、録音したスズムシの声





 


 


 

  
 

 

 

 
 

連載  美しい鳴き声を訪ねて [電子ブック]

 第1章  鳴く虫編  
 1-01  「ウマオイの里 久万高原町」

 わたしの故郷

 私がまだ子供の頃のことであった。5歳のときである。家族と一緒に、はじめてウマオイの声をきいた。そして、すごく感動した。
 そのころ私は、四国の山奥に住んでいた。久万町(くままち)という小さな町である。人口は1万にも満たない。東西1キロ、南北2キロと細長く、四方を山にかこまれた盆地である。海抜500メートルで、夏は涼しいが冬は寒い。自然は豊富だが娯楽の少ない町だった。
 そんな町はずれに北村(きたむら)という村がある。20軒ほどの集落だ。私の家は、その村の入り口にあり、大きな石垣の上に建っていた。部落の家は、ほとんどが瓦屋根だったが、私の家は、昔のままの茅葺屋根だった。それほど古い家である。
 屋敷の庭には、樹齢100年とも思われる柿ノ木が5本もある。それらが家をとりまいて、葉が茂ると昼間でも薄暗い感じがする。
 柿ノ木のほかにも、梅や桃、栗、ザクロ、イチジク、ナツメ、グミ、ビワといった果樹が植えられていた。どれも古木の割りには実もついて、とくに桃はおいしくて、よく食べた。
 さらに、ツバキやサザンカ、サルスベリなどの老木もあり、石垣の上にはスオウやツツジのほか山吹もあり、これらすべて咲きだすと、庭全体がぱっと明るくなっていた。
 屋敷の並びには、畑やたんぼがあり、その近くには小川も流れていた。田植えのころにはホタルがとび、ドンコやドジョウ、カジカやウナギも棲んでいた。近くの山には雑木が茂り、茅場もあった。そんな環境だったからこそ、ウマオイもたくさんいたのだろう。
 
 ウマオイの声に感動する。
 お盆の夜である。陽はとっぷりと暮れた。星空は明るいが、外は真っ暗だ。萱ふきの家に入ると薄暗い。黒くすすけた天井から、60ワットの裸電球が1個だけぶらさがっているだけだ。その明かりの下で夕食がはじまった。親子8人である。
 みんなで囲炉裏を囲み、くすぶる煙をさけながら、ご飯を食べていた。と、そのときである。音もなく飛んできた虫が明かりをさえぎった。何だろう?と思ってそちらに目をやると、その物影は、数回ちらついたあと、どこかえ消え去った。これを見た父は、
 「あっ、スイッチョンがきた」 といった。だが、みんなは黙ったまま、もくもくとご飯を食べている。
 少しすると、耳に聞きとれない 「ウイーン」とうなるような細い声がきこえてきた。これは、ウマオイが鳴く前奏である。この声を耳にした父は、
 「しっ、しずかに」 と言って、箸を置いた。

RIMG0080明かりにきたウマオイ.jpg

 これを見たみんなは、次々と箸を置いた。なぜ箸をおくのだろう。不思議に思ったが、私もまねて置いた。
 父は目をつむった。みんなも目をつむる。ウマオイの前奏はまだつづいている。そして数分がすぎた。ウマオイの声は尻上がりに高くなっていく。そして、鳴きやめた!と思ったそのときである。
「チョンイー チョンイー」 という歯切れのよい声に変わっていった。本奏である。この声は、まるで弦のように美しい音色だった。
 みんなは目をつむったまま、じっとその声に聞き入っている。ウマオイの声は長く続いた。どのくらい経っただろうか。「チョンイー チョンイー」という声が、次第に衰えてきた。「チョン、、、、イー」 というようにである。
 そろそろおわるのかなあ、と思ったが、それがなかなか終わらない。テンポも遅くなってきた。それからまもなくである。ちょっと間をおいて、「チョン」 という声がした。これで終わりである。かくして鳴きやんだ。
 みんなはため息をもらし、「ああ よかったなあ」、といってよろこんだ。私も一緒になってよろこんだ。そして、すごく感動した。この感動こそ、私の更なる探求へと進んでいく力、となっていくのである。後文省略。


 ウマオイについて
 ウマオイはキリギリス科の仲間で、スイッチョの名で親しまれている。俳句や詩にも登場する。また一方では、鳴く虫の愛好家にも好かれている。
 ウマオイには、ハヤシノウマオイと、ハタケノウマオイとがいて、大きさも色も同じであるが、鳴き声が異なるので別種である。どちらも肉食性がつよい。うっかりして指などにかみつかれると、首がちぎれても離さない。それくらいどう猛な昆虫である。私も、子供のころ、指にかみつかれ、痛いおもいをした経験がある。
 ハヤシノウマオイは、あかるい林の下草の中にすみ、ハタケノウマオイは、畑周辺の草むらの中にすんでいる。いずれも8月ころに鳴く。
 ハヤシノウマオイは、「チョンイー チョンイー」 というふうにゆっくり鳴き、ハタケノウマオイは、「スイッチョ スイッチョ」 と気ぜわしく鳴く。私が子供の頃に、家の中へ飛んで来て鳴いたウマオイは、ハヤシノウマオイだったようである。 
 鳴き声の周波数は両者ともに高い。故、松浦一郎氏の測定によると、ハタケノウマオイは、10,5キロヘルツ。ハヤシノウマオイは、13キロヘルツとある。人の声は、普通0,5キロヘルツ前後であるから、ウマオイの声が、いかに高いかが想像できよう。よほど工夫しないと聞こえない音域である。

        耳に手を   すいっちょと聞こえ   加わりし       ・・皆吉爽両・・

 







 

連載  美しい鳴き声を訪ねて  目次 [電子ブック]

 本文に入る前に、全体をかんたんに説明いたします。
本の大きさはA5版、175ページ。モノクロ写真や、イラスト入り。
第1章から4章までは、生きもの。5章から8章までは、使用した機材や、応用、工夫した話などです。

 それでは、大まかな目次を羅列してみます。
第1章  鳴く虫編。8話。
      ウマオイ  オーストラリアのケラ  カワラエンマコウロギ  邯鄲  クツワムシ  
      スズムシ  ヒロバネカンタン  マツムシ

第2章  蛙編。13話。
      ニホンアマガエル  カジカガエル  シュレーゲルアオガエルその1とその2  
      タゴガエル  ダルマガエル  ツチガエル  モリアオガエル  ヤマアカガエル  
      河鹿  関東の河鹿生息地  河鹿の飼育記録  ビデオ映像入賞作品 「かじか」

第3章  野鳥編。10話。
      アオバズク  アカショウビン  アメフラシ、名前の語源  ウグイス  キジ
      キビタキ  クロツグミ  コノハズク  サンコウチョウ  声の仏法僧

第4章  蝉編。8話。
      アブラゼミ  エゾハルゼミ  クマゼミ  ツクツクボウシ  ハルゼミのラブダンス  
      ヒグラシ   ヒメハルゼミ  ミンミンゼミ
  
第5章  機材自作編。7話。
      コオモリ傘を利用した集音機  ビール缶を利用した集音機  
      照明器具の反射板を利用した集音機  直径3メートルの集音機
      茶こしを利用した風防マイク  毛羽たきを利用した風防マイク
      蚊帳を利用した風防

第6章  実技応用編。3話。
      水中マイクで魚の声を、それで漁獲。  釣竿利用のマイク  リール竿利用のマイク
  
第7章  豆知識編。7話。
      
第8章  その他。11話。

おわりに。
著者紹介。
引用文献。

 以上、かんたんに説明しました。
 
 追伸  タイトルやストーリーは、予告なく変更する場合があります。きょうは、ここまで。





連載  美しい鳴き声を訪ねて  序 [電子ブック]

 先日おしらせしました連載、きょうからスタートします。
まずは、序 のところを書いてみます。
 毎日書くのは難しいかも知れませんので、順を追って書いてみます。あしからず。



 「まえがき」 を書いてくれと、頼まれた。
 きびしく書けば、OOだと言われそうだ。反対にほめて書けば、なんだ、OOか、とけなされる。とかく、OOのことは書きづらい。
 はじめに、「美しい鳴き声を訪ねて」を読んだとき私は、おっ、これは、ファーブルの「昆虫記」を思い出していた。
 ファーブル(1823-1915)は、小さな昆虫たちへの異常なまでの好奇心と愛情と、情熱、工夫、観察とによって、あの素晴らしい「昆虫記」を成したことは承知のとおりである。もちろん、「美しい鳴き声を訪ねて」は、それとは比ぶべきもないが、虫たちや小動物などに対する多年の観察、実験、鳴き声の収録、そして、科学的(音響的)な分析などには驚かせれた。
 "困ったら工夫せよ" ということばがある。その工夫がおもしろかった。カジカガエルの録音である。橋の上からマイクを垂らす。これぐらいなら私だって出来る。だが、指先ほどのマイクを釣竿の先につけて、5,4メートルに伸ばし、カジカガエルの鼻先で録音する、というようなことは、なかなか思い当たらない。まして、こうもり傘の集音器などとなると、予想外である。こうもり傘は、天気に合わせて差すものとばかり思っていた。
 このほか、水中の録音、これを放送して漁獲高を上げたり、蛙を飼育観察、鳴かせたりと、数十年に亘って堂々とやっている。そして一つの物を完成に近づけた。まさに、"継続は力なり" である。すばらしいと思う。
 "ケチ" OOをこう思った。フェリーで小樽から帰ろうとしたときである。私共は、名物をということで、夕食にウニを選んだ。ところが、OOだけ一人、カレー丼を注文したのである。私たちは笑った。
 乗船して夜の海へ出たとき、私は、だが待てよ、あれはひょっとして、と思うと急に恥ずかしくなった。小さなことにも気を遣って資金とし、次への研究の準備をしていたのではなかったか、、、。
 七月の日本海は凪いで、星が美しかった。私は、「美しい鳴き声を訪ねて」 は、きっと、読んでくださる方々を楽しませてくれるにちがいない、と思いはじめていた。

                            (元NHK学校放送出演  元音楽教師  OO OO)


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